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酒米づくりからはじめる、100%大井町産のお酒づくり

「お酒はお米からできる」ということは知っていても、実際にそれを見たことがある人は、なかなかいないのでは?

神奈川県大井町では、大井町の棚田でつくった酒米を、地元の酒蔵が醸し、100%大井町産のお酒づくりに取り組んでいます。そして、この酒米づくり、なんと体験できるんだそうです。

今回は、このお酒づくりに取り組み、酒米づくり体験を行っている、農家の藤澤憲吾さんにお話を聞きました。

お米をつくっても儲からない…休耕田だった棚田

藤澤さんたちが酒米をつくっているのは、大井町の高尾という地域。ここは大井町の中でも傾斜地が多く、もともとあった棚田は休耕田になっていました。

そもそも、なんで休耕田は増えてしまったのでしょうか。藤澤さんはこう話します。

「そもそも田んぼって、単純にできたお米を売っただけじゃ、赤字になるし、全くわりに合わない。草刈りや草取り…いろいろやらなきゃならんことがあって、農機を揃えるのにもお金がかかるし、農薬や肥料も必要。作業する人の人件費だってかかるわけです」

「もちろん、東北なんかだと、また違う。広大な田んぼがあれば、機械も使いやすいし、収量も多くできる。でもこのへんは、真四角の田んぼがあまりなくて、不整形の田んぼが棚田になってるんですよ。それだけ手間もかかるし、経費もかかる。やってもやっても儲からないし、勤めてる方が給料よっぽどいいね、とみんな農家やんなくなるわけです」

体験を提供していくことが、価値になる

そうした状況の中、藤澤さんが周囲に声をかけて「高尾棚田保存会」をはじめ、田んぼを再生させたのが3年前。

「保存会以外にも、いろんなことやってるんですよ。もともと兼業農家で、若い頃は農協に勤めていて。定年退職後に大井町役場に関わり始めて、ゆめおおい体験塾っていう農業体験事業を立ち上げました。バスツアーを受け入れたり、東京都内の高校の体験学習を受けいれたりしていましたね」

畑でできた農作物を売るだけでなく、これからは体験を提供していくことが付加価値になっていくんじゃないかーー。そんな先見の明を持っていたのが、藤澤さんでした。

「田んぼも、毎年田植えや稲刈りの体験を受け入れているんですが、それでようやく収支がトントンになってきました。去年は稲刈りをしに合計600人くらい来てくれて。もちろん、たくさんの人に田植えや稲刈りの作業を教えるには、農家側の人手も必要になりますけどね。250人が一斉に田植えに来る日なんかは、農家25人で総出で苗を運んで、植え方を教えました」

大井町の酒蔵で酒をつくんなきゃ意味がない

つくっている酒米は、「吟のさと」という品種。酒米は背丈が高い分、ふつうのお米より倒れやすく育てるのが難しいそうなのですが、「吟のさと」は背丈が少し低く、倒れにくいという特性を備えています。

「それでも、育て始めた最初の1年目は、酒米の種もみがうまくできなかったんですよ。だから主食用のふつうのお米をつくって、それをお酒にしてもらった。ちゃんと酒米でつくれたのは、2年前からですね」

お酒をつくる過程では、”米を磨く”と言って、米の表面を削ります。お米の表層にある脂質やタンパク質を取り去ることで、雑味のないスッキリとしたお酒ができあがります。酒米は主食用のお米に比べても一粒一粒が大きく、お米を磨きやすいのです。

できたお米をお酒にしてくれるのは、大井町内にある井上酒造。「一緒に大井町産のお酒をつくろう」と藤澤さんが話を持ちかけました。

「せっかく大井町産の酒米を使うんだから、大井町の酒蔵でつくんなきゃ意味がないと思って。頼んでみたら、『いいよ』と言ってくれたんです」

深度120mの地下水で、すっきりした味に

井上酒造は、1789年創業、現在7代目。 10名ほどのスタッフが働いており、「酒は人柄(ひと)がつくる」を社訓としています。

200年以上の歴史がある酒蔵ですが、蔵を”文化を発信する場所”と捉え、まちの人に向けてコンサートをひらくなど、ふつうの酒蔵ではなかなかやらないようなことにもチャレンジしています。

藤澤さんたちが育てた酒米は、磨いた後に洗米・浸漬させ、和窯で蒸しあげられます。お酒づくりがうまく行くかどうかは、9割がた、水を吸わせる段階で決まると杜氏さんは話します。

井上酒造では、深度120mからくみ上げた地下水を使用しています。いまは水道水を使う酒蔵も多いようですが、硬水の井戸水を使うことで、キリっとした酸味が特徴のすっきりした味になるそう。

お酒づくりの作業は、お米の温度を冷やしやすいように、早朝に行っているそう。小さい蔵ならではの特徴を活かし、手作業で丁寧につくっています。

できたお酒は、稲刈り体験プログラムのあとに、参加者のみなさんで試飲しました。

お酒を飲むことが、棚田の維持につながる?

藤澤さんは、これからのことについて、こんな風に話します。

「酒米づくりを手伝ってくれている地域の仲間も、平均年齢は60歳くらい。高齢化はどんどん進んでいます。この地域をどうにかするなら、あと5年以内。この5年で何もしなかったら、もう相和地域は死んじゃう。自分1人がやっていてもダメで、事業としてちゃんと農業体験を受け入れていこうと、法人をつくる方向で話が進んでいます」

高齢化や田んぼの荒廃に悩みつつも、地域保全のためにあれこれと工夫を続けている、藤澤さんと大井町のみなさん。ここでできたお酒を飲むことで、そんな活動を少しでも手伝えたら、素敵ですね。

大井町産のお酒は、「夢高尾」という名前で販売されており、BIOTOPIAなどでも買うことができます。井上酒造も、酒蔵の見学・試飲を受け付けています(電話またはメールで事前予約が必要です)。

春や秋には、酒米の田植えや稲刈りを体験し、「夢高尾」が1本もらえるというプログラムも開催しています。稲刈りのあとに、地元産のお蕎麦に冷酒をきゅっとやるのもおいしそうですね。