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1216/mochi

お正月の供え物は、買うんじゃなくて自分でつくる。90歳の長老に習う、里山ならではのしめ縄づくり

みなさんは、お正月準備ってどうしていますか?

私は東京に住んでいますが、しめ縄や鏡もちって、毎年スーパーで見かけるものでした。赤や金の派手なパッケージで、大量に積み上げられたそれら…。1回だけ買ってみたことがあるのですが、ごてごてしたプラスチック飾りの質感に、家でがっかりしたことを覚えています。

「正月飾りをスーパーで買う?農家は、自分の手で毎年つくっていますよ」という言葉を聞き、大井町へ行ってきました。

正月飾りということで、まずは鏡もちづくりから。まずは蒸したお米を臼と杵でついて、鏡もちづくり。ちぎったお餅に片栗粉をまぶしながら、鏡もちの形に丸めていきます。

今回は、家族で参加した人も2組いましたが、子どもたちは顔まで粉だらけ。農家さん曰く、お餅をつきすぎると柔らかくなってしまって形が整わないので、少し固めについておくのがコツなんだそうです。

丸めたお餅は、重ねられるように、固まるまで少し時間をおきます。その間に、つきたてのお餅でお昼ご飯に。

鏡もち用についたものよりも柔らかくついたお餅を、一口大にちぎって、具とあえていきます。定番のきな粉やあんこ、大人に人気だったのはネギ・おかか・醤油のさっぱり味。

こちらは、農家のお母さんがつくってくれた鶏のすまし汁。農家さんの畑で採れた野菜がたっぷり。

つきたてのお餅と一緒に縁側に並べると、至福の食卓に。つきたてのお餅は柔らかくてスルスル食べられます。

昼ごはんを食べた後、午後からはしめ縄づくり。今回教えてくれたのは、大井町に住んでいる香川勝利(しょうり)さんと、孫の倫幸(みちゆき)さん。勝利さんは、御年なんと90歳。存在しているだけで、ちょっと神々しい感じがします。

「しめ縄をなんで飾るかっていうと、新しい年を迎えるにあたって、おうちに歳神(としがみ)さまをお迎えするためです。歳神さまは、実りをもたらすために高い山から下りてきて、家に幸せを運んでくれる。しめ縄があることで、ここは神様が来ても大丈夫な場所ですよ、と家を見つけるための目印になりますから」

私たちがふだんお正月に食べているおせちなども、本来は歳神さまへのお供え物なのだそうです。お年玉も、もとは歳神さまの魂を指していたのだそう。

「縄をなうやり方は、代々、親から習います。ふだん農具に使う縄なんかは作りやすい右ないで作っているけど、神様には特別なものをということで、お正月飾りは逆の左ない。うちでは神棚、仏壇、床の間、お墓、庭のお稲荷さん、庭の湧き水の水神さん、あとは大きなクスノキの山神さんの7箇所に祀るのを、ずっと続けてきてます」

(香川家の敷地にある山神のクスノキ。一部枯れてしまって、今はちょっと変わった形になってしまったが、かつては相模湾を行き来する船の目印となっていたという。)

「まずは縄をなう練習をしましょう」とのことで、やってみましたが、これが難しい。

まずは、手をしめらせて、わらの根元をそろえて足で踏んでおさえます。束を2つに分け、左手を手前にずらした形でわら束を両手ではさみ、手をすり合わせる。

勝利さんの手の中で、あっという間に縄ができましたが、手の動きが早過ぎてあぜん…。「どうなってるのか全くわからない」と参加者たち。

「指先でわらをねじりながら、そのねじった2束を、てのひらで逆方向にねじるんです。それを手の中で同時にやっています」と、孫の倫幸さんがゆっくり仕組みを説明してくれます。参加者も、少しずつ勘をつかんでいくように。

しかし私は、説明をいくら聞いてもさっぱりわかりませんでした。右回りと左回り、同時に逆方向にねじる…?手は2本しかないのに、そんなことって可能なのかな…? 

「考え過ぎるとできなくなっちゃうよ」「指でわらを掴まずに、手はすりあわせるだけに」とアドバイスをもらいながら、勝利さんの隣でつきっきりで教えてもらい、ようやく「あっ!できるようになった!」という瞬間が。

子どもがはじめて泥団子を完成させたときのような嬉しさです。これを最初に考えついた昔の人はすごい! 参加者からも、「楽しい」「手を動かす瞑想みたい」と声が上がりました。

教えてくれた香川さんは、古くからこの地に住み、村の指導的立場を担ってきた、名主(なぬし)という由緒ある家柄だそうです。戦前は地主として小作へと農地を貸していましたが、戦後の農地解放で農家になったといいます。

「農家は昔っから、雨が降ると農作業ができないんで、わら仕事をするんですよ。日に当たると黄色くなっちゃうんで、日陰で干しておいたわらを、木槌で叩いて柔らかくして使う。今回はお正月飾りなんで短い縄ですが、何十メートルも縄をなったりもしますよ」

「でも今は、縄をなえる人も少なくなっちゃったね。良いわらも、なかなか手に入れるのが大変で。コンバインとか機械で稲を刈ると、地面すれすれを刈らないので、わらが短くなっちゃうんだよ。昔はどこも手刈りだったんだけど」

「でも、自分でつくるのもいいでしょう。しめ縄も、最近は店で買ってるものをつけちゃう人が多いけどさ。売ってるものみたいにきれいじゃないけど、自分でつくったことに意味があるんだよねえ」と勝利さん。

そんな話を聞きながら、編んだ縄にゆずりはの葉っぱと飾りの紙をつけて、しめ縄が完成。地域によっても形が違いますが、今回教わったものは一文字飾りといいます。シンプルでかっこいい。

孫の倫幸さんは、しめ縄をお正月飾りとして飾るだけでなく、ゆくゆくは町内のシイノキや古木にも飾っていきたいと話します。

「この地域には、古くからの常緑樹がたくさんあって、『鎮守(ちんじゅ)の森』として、みんなで敬ってきたんです。でも、高齢化などでだんだんと鎮守の森を守る存在が減ってしまって。隣の集落にも、7代にわたって祀ってきたシイノキがあったんですが、ご主人が今年亡くなられて後継ぎがいなくなってしまいました」

「うちでおじいちゃんがやっているのを見てきたとはいえ、実は僕も、詳しくは知らなかったんです。でも地域の人と接する中で、こういうことを何代もずっと守ってきた人たちが沢山いるんだなと知って。地域で守ってきたものを、引き継いでいきたいんです」

「この地域で2400年前の炭化米が出土したりもしましたけど、縄文時代から、人間ってずっと縄をつくっていたんですよね。縄文時代は麻で、弥生時代に稲作が広まって、今のように藁を使うようになって。そんな頃から、ずっと人がやっていたことを続けていけたらって。地元で暮らす人でも、縄のない方を知らない人はいるから、おじいちゃんと一緒に体験教室を始めたんです」

「この町も人が減っているので、それぞれの家で古木を祀るというやり方は、これからは難しくなるかもしれない。今回は正月飾りでしたけど、みんなで一緒にもっと大きい縄を作って、シイノキに飾って奉納していけたらと思っています。誰もやらなくなったら、終わってしまうから」

なお、完成したしめ縄は、28日か30日に飾ります。29日は9がつくので縁起が悪いのと、31日は一夜飾りになってしまうので、よくないそう。飾ったしめ縄は、翌年7日に七草がゆを食べた後に取り外し、どんど焼きや神社のお焚き上げへ持っていきます。

大井町では、稲荷神社をお祀りする稲荷講(いなりこう)というグループを周辺の家々とつくっており、稲荷講のみんなで道祖神さまのところで燃やすそうです。

参加した家族からは、「来年は、田んぼで稲をつくるところから1年ぐるっと体験できたらいいな」という声もありました。

歳神さまは稲作をつかさどっており、田植えや稲刈りの季節は山や田にいらっしゃるそうです。田畑に作物がなくなった農閑期であるお正月に、家にお招きして、1年の実りに感謝しつつ来年の実りをお願いする。

都会ではなかなか実感が湧きませんでしたが、お正月というのは、農家さんたちの1年の稲作のサイクルの中にある農耕行事なんですね。

倫幸さんが言うとおり、こういう風習が、ずっと続いていくといいなあと思わずにはいられません。