Retreat

0903/blueberry

里山の木々をくべた石釜で焼く、ブルーベリーピザと大地のカンパーニュ

畑を眺めながら食べる採れたてピザ

9月3日、体験農園である「ブルーベリーガーデン旭」の開園時期が終盤に差し掛かった日、小さな収穫祭が開かれた。私がここに来るのはもう5回目以上。今春発行された、「大井町の台地の風景から見える 30のかみさま」の取材のたびに訪れ、ほっと一息つく場所となっていた。

小高い丘の上にあって気持ちのいい風の吹き抜けるこの場所に来ると、自分を通り抜ける風が何かをさらっていってくれるような感覚になる。いつもなんだか少し体が軽くなった感じがするのだ。

まだまだブルーベリーのもぎ取りに来るお客さんもたくさんいるけれど、この日の主役は、農園のちょっと奥まった場所に据えられた立派な石窯である。

口コミで集まった人たちが、思い思いの食材を持ち寄ってくる。この日は、持ち寄った具材をのせて手作りしたピザを食べ、デザートは採れたてのブルーベリーのピザ。シメは、石窯で焼く極上のカンパーニュという、フルコースが予定されていた。

自分の椅子を持ち込んでくつろいでいる人あり、ブルーベリーの畑をかけまわる子あり……思い思いに過ごす人たちの顔はみな明るい。私はといえば、そんな人たちを眺めたり、会話に耳を傾けるのが好きだ。食材がずらりと並んだテーブルを囲んで、わいわいとピザ作りは始まった。

さて、この日のピザ生地は、パン教室を主宰する神戸さえさん作。3時間前から火を入れて適温になった石窯の横で、参加者が生地を伸ばし、トマトソース、マッシュルーム、チーズやアンチョビをのせていく。白くてすべすべの、つるんと丸められた生地。たっぷりと打ち粉をして、めん棒でぐいぐいっと伸ばす。手に反発する感触が気持ちよくて、生地を伸ばす作業だけずっとやっていたいような。うまく丸く伸ばせないのも、もうちょっと上手にやりたい!という気持ちを掻き立てる。

周りを見ると、ピザはどれも少しずつ不格好で、なぜかたくさん盛られた具があったりして、それぞれの好みが知れて楽しい。できあがった生地は、350℃に温められたかまどの中でたった数分。外はカリッとして、香ばしい生地と自分好みの具がぎっしりの熱々ピザは、1枚食べただけで満足感のある、最高の野外メニューだ。

自分で焼く作業も体験させてもらった。農園主の小宮真一郎さんは、さすがに手際よくくるくるとピザを回しながら焼いていたが、これが難しい。直火の熱気を感じながら、なんとかピザが焦げないように、先にピザをのせた棒を操るが、勢い余って落としてしまった。「ははは。私はもう相当な数を焼いてますからねぇ」と小宮さん。いつか、私も石窯ピザを上手に焼けるようになりたい!

デザートに使うブルーベリーは目と鼻の先にあるブルーベリー園で、もいだその手で盛り付けたもの。クランブルとカスタードクリームと一緒にこんがりと焼くと、まるでブルーベリーパイを食べているよう。だけど、パイを作るより断然簡単で、ジューシーなうまみが味わえるなんて、石窯の威力を思い知った気がした。

相和のかまどで焼く相和のカンパーニュ

そもそもなぜこんなに立派な石窯が小宮さんの農園にあるのだろうか。その理由を知るために、ブルーベリー農園の成り立ちまでさかのぼって聞いてみた。

「農家になろうなんて思っていなかったんですよ。僕、実は絵描きになりたかったんです。地主の家ではあったけれど、父は農業をやっていなかったし、継げと言われたこともなかったですから」と小宮さんは言う。

しかし、23歳のときに画家の夢を諦め、農業の道に進むことに決めた。そして2年間住み込みの農業研修へ。実家に戻り、「ここなら自由に使っていいよ」と家族からあてがわれた杉林を、重機も使ってひたすら1人で開墾したという。広さは約1ヘクタール。半年かかってできた畑は果樹園になった。農業をするなら無農薬でできる作物を、と考えて選んだのがブルーベリーだった。

「ブルーベリーガーデン旭」と名付けられた果樹園には、6種類のブルーベリーの苗が植えられ、苗を植えて4年後から徐々に収穫ができるように。毎年、観光農園として開園する7月上旬から9月中旬までの間は、多い時でのべ3,500人もの人がブルーベリーを摘みにやってきた。それはもう目の回る様な忙しさで、一人ひとりのお客さんとじっくり向き合う時間は取れなかったそうだ。

しかし今、小宮さんの胸の内には、静かにのんびり過ごせるような果樹園のイメージが広がっている。その要となるのが、畑のそばにある立派な石窯だ。

一度に20〜30枚のピザを焼ける大きな石窯を築いたレンガは、知人の陶芸家から譲り受けたもの。最初はなりゆきでできた石窯だったが、次第に石窯で焼く食べもののおいしさや、かまどが里山の暮らしの中で果たす役割を体感するにつれ、なくてはならないものになっていった。

ここでは、これまでにも数多くの石窯を使う催しがされてきた。手軽に作れるピザの会が多いが、石窯を活用するなら、その真骨頂はフランス語で「田舎パン」を意味する、パン・ド・カンパーニュ。粗挽きの粉、塩、水だけを使った素朴なパンこそ、かまどの火で焼いた時のおいしさは格別だ。

パンは、ピザを焼き終わり、炭を取り出した石窯で焼く。パンの適温は180℃〜220℃。何時間も火を焚き続けた窯に蓄えられた放射熱で約20分、遠赤外線でしっかりと焼きしめられたパンの外はパリパリと弾けるようでいて中はしっとり香ばしい。どんなに高価な最新オーブンも、原始的な石窯の焼き上がりにはかなわないという。

話はずいぶんと壮大になるが、かつて火を手に入れ、やがてかまどで煮炊きをするようになった人々の営みの原点が、ここにある気がしてくる。かまどの中で揺れる火をなんとか操りながら、いい頃合いを見計らって糧(かて)を焼く。ウメ、サクラ、クヌギにコナラといった里山の木々の薪をくべてできる主食のカンパーニュを、「この土地の恵みを凝縮したパン」と小宮さんは言い、石窯が点在する村を思い描く。

相和には、今はまだ石窯はもうひとつ。2012年に四季の里に据えられた石窯は、町をあげた四季折々の祭りのたびに、旬の農作物を使ったピザ作り体験を提供している。


(12月に行われる「みかん祭り」でつくられたみかんピザ)

パチパチと音を立ててはぜる薪の音や、かまどの中の火の色を味わってみてほしい。大地を感じ、自分の心をそっと覗くような穏やかな時間が、ここには流れている。

こんがり焼いた果実のおいしさ

ブルーベリーのピザのつくり方

1.クランブルをつくる。同量のグラニュー糖、小麦粉、溶かしバターを混ぜてぽろぽろの状態にする。
2.用意したピザ生地に、カスタードクリーム、クランブル、マスカルポーネチーズ、ブルーベリーをのせて焼く。
3.こんがり色づいたら取り出し、はちみつをかけていただく。

ブルーベリー刈りは、7月上旬から9月初旬までがシーズンです。季節のイベント開催は、facebookページよりご案内しています。